強誘電体は,センサー,ICカード (不揮発メモリー),非線型光学素子等に利用さている最も重要な実用材料のひとつです。その結晶中で,原子・イオンは規則的に振動し(フォノン),そのフォノンは材料の諸特性,特に誘電特性や光学特性に深くかかわっています。
当研究室では機能性材料のフォノンに関係した諸特性を大きく向上させるために,新しい物質の創製と新しい物性の発見を目指した研究と,その基礎となる学問体系の確立を目指した研究を実験・理論両面からのアプローチにより推進しています。
基礎研究の面白さは,一見複雑そうに見える現象の中から,本質的な現象を見つけ出して,そのメカニズムを誰にでも分かる簡単な言葉で説明していくところにあります。
これまで当研究室では,Pb(Zr,Ti)O3 (PZT) や Pb(Zn1/3Nb2/3)O3-PbTiO3 (PZN-PT) のような実用強誘電体の大きな誘電圧電応答の機構解明に貢献してきました。今後も,酸化物強誘電体結晶の結晶構造とフォノンに由来する物性解明に向けた基礎研究を遂行します。主な実験手段として,DC電場下の誘電率測定,非線型誘電率測定,P-Eループ観察,焦電測定等の電気的測定,光散乱等の光学的測定,偏光顕微鏡や走査プローブ顕微鏡による組織構造観察を行っています。物性研究では,熱力学的理論を基にした理論的な考察も行います。
図1にPZN-8%PTの電場下の誘電率温度依存性と温度電場相図の結果を示します。当研究室では,この物質の相図上に強誘電的臨界点 (CEP) を見つけました。
ICカードで使われている強誘電体不揮発メモリーの書き込みでは,強誘電体の分極反転現象が利用されています。当研究室では,分域壁構造や分極反転機構解明に関する基礎研究を行っています。主な実験手段として,走査プローブ顕微鏡による静的微小ドメイン構造の観察,偏光顕微鏡による分極反転のその場観察等を行っています。
図2に走査プローブ顕微鏡 (SPM) を用いて観察されたPZN-20%PT の強誘電性・強弾性 domain wall 構造を示します。観察結果は島津製作所のホームページ (SPM資料室) に掲載されています。
強誘電体を用いたデバイスの性能を向上させるために,新強誘電体結晶の探索は必要不可欠です。新強誘電体結晶の探索とそれらの新しい物性の解明を目指した研究を行っています。単結晶育成には,主に赤外線加熱によるフローティングゾーン (FZ) 法とマッフル炉によるフラック法を用いています。90%以上の大きな誘電チューナビリティを示す実用材料の研究も行っています。